ある日いきなりアイディアが思い浮かんで、それを想像通りに漫画にできる。そんなことができたらどんなにいいでしょうか。

プロの漫画家でさえ、ネタが尽きることがありますし、思い通りの構図を描けるとは限りません。

あの「漫画の神様」手塚治虫先生でも、原稿にかじりつくように取り組んでおられたとのこと。また、ネームを何百ページと描いて、そこから物語を抽出していたというのは有名な話です。

名作「ブラックジャック」も、医学部にいた経験から生み出されたものです。漫画のネタというのはそういった人生経験からもたらされるものなのです。

普通に暮らして普通に就職して、特段経験がない、という人も、その日常からアイディアを膨らませることができます。サラリーマンを経験しているなら、サラリーマンが出世していく過程を描いた漫画も描けます。「島耕作」シリーズがそうですね。

自分の見たもの聞いたもの、体験したもの、それら全てが経験になります。

ですが、経験をそのまま描いても面白くもなんともありません。それはただの絵日記です。日常的に面白いことが起こっているなら話は別ですが、なかなかそんなことはありませんよね。そこでアイディアという肉付けをしていくのです。

要は「話を盛る」ことが必要なのです。例えば、大学入試前の緊張感や勉強が捗らない焦燥感なども、難関大学を目指しているのにトラブルが続いてなかなか勉強できない、など話を膨らませることができます。「東京大学物語」がそうですね。

知らない世界のことを想像で描くのも面白いかもしれません。ただし取材不足(経験不足)のものではシリアスには描けません。あくまでファンタジーになります。

自分ではいい作品が描けたと思っても、その道のプロから見ると矛盾やありえないことだらけで、いわゆる「ツッコミどころの多い漫画」になってしまいます。

ですから、実在する職業やありがちな経験をネタにするときは必ず取材するようにしましょう。

完全なるファンタジーなら自分の空想をネタに描くことができます。異世界での話や地球外の話になると、物理法則などをある程度無視して描けますからね。

ただ、そこに行きつくまでが大変です。空想と経験とアイディアが上手く混ざり合った時、やっと形にできるかできないかになります。

空想できればいい、経験を積めばいい、というわけではありません。すべての要素が必須なのです。

そしてアイディア。これが思い浮かばないと話になりません。空想も経験も作品の骨組みにしか過ぎないからです。ここで苦しむ漫画家はたくさんいます。もし思いついたとしても、既存の作品と設定が被っていたらせっかくのアイディアも泡と消えます。

まだ誰も形にしていないものを作品にするには、アイディアをうんうん唸りながらひねり出すしかないのです。まさに生みの苦しみです。

このように漫画家は常にアイディアを考え、さらに人生経験が物語に深みを与えるのです。